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〇〇〇?そいつに自由はあるのかい?

連続小説ドライバー30 第三章「無題 ある絵描きの死」第十二

こんにちは、チャバティ64です。

仕事はお茶の販売をしています。

BASEの「お茶の葉園」(あいばえん)

というショップを趣味で運営しています。

よろしくお願いします。

 

本日から連続小説の続きをお届けします。

 

彼からの突然の告白。

言葉を失うロンシャンとミホ。

さあ、刻々とラストに近づいてきました。

 

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(さくらの花びらに導かれエンディングへと続きます)


連続小説ドライバー3 「無題(ある絵描きの死)」

昔話は本当の話の連続小説 第十二話

 

(この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません)

 

行く道は涙に濡れ、

行く道は嘆きにあふれ、

行く道は悲しみの数だけ続く

・・・「DRIVER」

 

《本編》

 

「実はボク、もうすぐ死ぬんです」

 

「肺に悪い腫瘍があって、数か月前に『あと半年』という余命宣告をされました」

「それで、体力のあるうちに最後の一枚を描こうと外へ出たんです」

「思い出のある『さくらの花びらが風に舞う風景』です」

「そこでロンシャンさんに出会い、この奇跡をもらったんです」

「感謝しても、感謝しきれません」

「きっとバンビーノが引き合わせてくれたんですね」

 

嬉しそうに話す彼を見て、ロンシャンもミホも言葉を失った。

 

「そうだ!もし許されるのなら息子に『ハルトシ』に、少しお金をいただけませんか?」

「息子なんておこがましいですが、ボクには残してあげられるものがありません」

「いま、どこにいるのかわかりませんが、孤児院なら寄付を、養子なら、その家へ少しでいいですから、渡していただけませんか?」

 

ロンシャンは言った。

「わかったよマサムネ、約束する、必ずだ」

 

彼は言った。

「ありがとうございます」

「それから...」

 

「ボクが死んだら、この絵も一緒に渡して下さい」

「後は、飾っても換金してもかまいません」

「自由にさせてあげてください」

彼は満足そうな顔をした。

 

ロンシャンはミホと顔を見合わせた。

ロンシャンはミホに目で語った。

そしてミホは小さく頷き、病室を出て行った。

 

ロンシャンは言った。

「マサムネ、話疲れただろう」

「少し横になるといい」

 

そういうと病室から出て行った。

ロンシャンは、廊下のベンチシートに座り、頭を抱えた。

 

「なんてことだ、マサムネにやっと出会えたのに」

「彼がそんな病気だったなんて、残酷過ぎるじゃないか」

「あぁ、神よ、私はあなたのことが嫌いになりそうだ」

 

ロンシャンは涙が止まらなかった。

 

それから一時間後、ミホがやってきた。

 

「早かったな、ミホ」

「私は少々疲れてしまったようだ」

「あとはまかせていいかな?」

ロンシャンは言った。

 

「わかりました」ミホはうなずいた。

 

「ハル、よく来てくれたな、待ってたよ」

ロンシャンは、ミホが連れてきた子供に手招きした。 

 

ミホは「ハルトシ」を連れに行っていたのだ。

「ハル」は、世界中のロンシャンの従業員が知るアイドルだ。

小さい頃からバンビーノに連れられ、控室で遊んでいた。

代わる代わる来る研修生たちに可愛がってもらっていたのだ。 

だから、人も知りもなく、とてもひとなつこい。

 

「うん、おじいちゃんもね」

ハルトシはロンシャンに、飛びついてハグした。

 

「ミホ、一緒に連れてきていてよかったね」

ロンシャンが言った。

 

「はい、本当にそう思います」

「やっぱりバンビーノが、どこかから手を差し伸べてるんですよ」

ミホは嬉しそうに言った。

 

「そうだな、本当にそう思うよ」 

「マサムネは、ハルを見てまた倒れるんじゃないか?」

ロンシャンが言った。

 

「ここは病院ですから大丈夫ですよ」

笑いながらミホが返した。

 

「さぁ、ハル、行こうか?」

ミホはしゃがんで、ハルトシの顔をなで立ちあがった。

 

「ミホママ、ちょっと待って」

 

ハルは「ミホ」のことを小さい頃から「ミホママ」と呼んでいた。

バンビーノは、彼と別れた後、住むところが無く、ミホのアパートに泊めてもらっていた。

そして、バンビーノが妊婦であることがわかると、ミホは同居の提案を彼女にしたのだ。

それからは、ずっと3人で暮らして来た。

だから「ハル」にはママが2人いる。

 

ハルは胸に両手を当て、大きく深呼吸した。

そして、手をつなぎ病室のドアをノックした。

 

「コン、コン、コン、コン」 

「ガチャ」ドアを開けた。

マサムネは寝ているようだ。

 

ハルトシは、ここに来るまでにミホから聞かされていた。

自分の本当の父親であると、

そしてもうすぐ死んでしまうことを。

 

実感がなかったから悲しくなかったが、子供ながら複雑な気持ちだった。

どうやって接していいのかわからない。

しかし、バンビーノと暮らした10年間で、もの心ついたときから「父の偉大さ」「素晴らしさ」を、毎日のように聞かされていた。

 

「だから、ずっと会いたかった」

 

「それが答えのすべてだった」

 

ハルトシは子供らしく、寝ているマサムネの布団の上にダイブした。

びっくりして飛び起きたマサムネに、ハルはこう言った。

 

「はやく起きて、おじさんがボクのパパなんでしょ?」

 

「ママからずっと聞いてたんだ、毎日毎日ね」

 

「ママは、パパのことが大好きだって言ってた」

「ママは、パパと出会えて幸せだと言ってた」

「ママは、パパのことを話すときが一番笑ってたんだ!」 

 

「写真が一枚も無かったから、どんな人なのか、いつも想像してた」

「会いたかったんだよ、パパ」 

「会いたかった!」

 

今日のお話はここまでです。

このお話は明日に続きます。

 

あなたの今日がステキな一日でありますように!

チャバティ64でした。

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