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〇〇〇?そいつに自由はあるのかい?

連続小説ドライバー25 第三章「無題 ある絵描きの死」第七話

こんにちは、チャバティ64です。

仕事はお茶の販売をしています。

BASEの「お茶の葉園」(あいばえん)

というショップを趣味で運営しています。

 

よろしくお願いします。

今週のお題】に取り組みたい欲望を抑え、連続小説継続です。

ロンシャンは、なぜあの公園を歩いていたのか?

絵描きの絵は気に入ってもらえるのか波乱の回です。

どうぞ、お楽しみください。

 

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(春の特権! さくらの無い景色を想像してみてください)

 

連続小説ドライバー25 「無題(ある画家の死)」

昔話は本当の話の連続小説 第七話

 

(この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません)

 

行く道は涙に濡れ、

行く道は嘆きにあふれ、

行く道は悲しみの数だけ続く

・・・「DRIVER」

 

《本編》

 

そうは言ったが女性は、彼がなぜ、ロンシャンが日本に来ていることを知っているのか不思議に思った。

 

彼は、いつもならあきらめていた。

しかし、今日は折れなかった。

彼は「今日しかない」と思っていたからだ。

「ゴホッ」また少しセキが出た。

 

「それでは、店の中に飾ってある『さくらの絵』を見せて下さい」

それを見たら帰ります。

彼は頭を下げた。

 

女性は困ってしまった。

オープン前の店内に部外者を入れては行けない決まりもある。

しかし、営業時間であっても、予約のない方を店内に入れるわけにもいかない。

「少し、お待ちいただけませんか?」

「私では分かりかねますので、チーフに確認してまいります」

 

女性は彼に頭を下げ走っていった。

「ゴホッ」口に手をあてた。

彼は、追い返されても仕方がないと思った。

そして、10分程過ぎた時、人がやって来た。

黒い三つ揃いのスーツに蝶ネクタイの男性だった。

 

「大変お待たして申し訳ありません」

「ロンシャンに確認しておりました」

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「ヨサノです」

「ヨサノ・マサムネです」

彼はドキドキしながら言った。

 

すると、その男性は深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました、ヨサノ様」

「ロンシャンがおまちかねです」

「こちらへどうぞ」

 

彼は男性の後をついて行った。

店の中に入るとロンシャンが真ん中あたりのテーブルにいて、高級そうなイスに腰掛けていた。

 

「ロンシャンさん、怒ってるだろうな」

彼は少し怯んでいた。

よく見ると、ロンシャンの横に松葉づえがあった。

 

「やぁ、マサムネ、また会えてうれしいよ!」

「約束を守ってくれたんだね」

「こちらへ来て座りたまえ」

ロンシャンは、そう言うと彼を手招きした。

 

「マサムネ、すまなかったな」

「あのあと、足を挫いてこのざまさ」

そう言うとギブスをした左足を投げ出した。

 

「キミの所へ行けなくて、連絡手段もなかったから困っていたんだよ」

「ボクの私的なことだから使いも出せなくてね」

「それをわざわざキミの方から来てくれた」

「キミはボクの一方的なワガママに付き合ってくれたんだね」

ロンシャンは申し訳なさそうに言った。

 

それを聞いた彼は慌て、右手を顔の前で左右に振りながら言った。

「そんなことはありませんよ」

「実はボクもあのあと、体が思うように動かなくて、絵が完成したのが今朝なんです」

「ロンシャンさんが何度も来てくれていたんじゃないかと思って、心苦しくて来ただけなんです」

「『もう、いらないよ』と言われても仕方ないと思ってます」

 

ロンシャンは言った。

「そうだったのか」

「それじゃあ、お互い貸し借りナシだな」

二人は顔を見合わせ、吹き出した。

 

「こんなことってあるんですね」

彼は、ロンシャンとの出会いは、やはり奇跡だと思った。

 

そして、ロンシャンは少し間をおき「では、絵を見せてくれないか?」と言った。

 

「わかりました」

彼はゆっくり包みをほどいた。

そして絵の後ろに回り、テーブルに立て「こちらになります」と言った。

 

大きな絵だった。

後ろに回り、両手で支える彼が見えない程だった。

「マサムネ、いったいこの絵は...」

ロンシャンは驚いた。

 

彼は言った。

「ロンシャンさん、すいません」

「どうしても描きたい風景があったので全部描き直しました」

「そうしたら、ロンシャンさんがほしいと言ってくれた絵より倍くらい大きな絵になってしまいました」

「いらなければ持って帰りますから安心して下さい」

 

彼は、ロンシャンに絵の後ろから話しかけていたが、なんの返事もなかった。

「ロンシャンさん?」

 

彼は不安が的中したと思った。

すると、先ほどの蝶ネクタイの男性が横に来て「持つのを代わります」と、言った。

彼は、代わってもらい絵の横に出て、恐る恐るロンシャンを見た。

 

ロンシャンは松葉杖をつき、立ち上がっていた。

そして、下を向き右手で目の辺りを押さえ黙っていた。

さらに、いま店にいる15人ほどの従業員がロンシャンの横に立ち半円を描くように絵を囲みこちらを見ていた。

さらに、何人かが下を向き泣いていた。

彼は緊張する中、先ほどの女性だけ青いスカートを身につけていることが気になった。

 

ロンシャンは顔を上げた。

目が真っ赤になっていた。

また、下を向き首を左右に振りながら言った。

 

「言葉にならない」

「素晴らしいよ」

「最高だよ、マサムネ!」

 

ロンシャンが、そう言うと一斉に拍手が起こった。

店内が「さくらの花びらが風に舞うかのように」拍手と笑顔と涙で包まれた。

絵の中では「さくらの花びら」と共に「少女の青いスカート」が、美しく揺れていた。

 

そこは「まさに春だった!」 

 

マサムネは嬉しかった。

こんなに多くの人から誉めてもらえるなんて、思いもしなかった。

「持ってきてよかった」と思った。

 

ロンシャンは彼に言った。

「この青いスカートの少女はバンビーノかい?」

 

「えっ!?」

 

 

今日のお話はここまでです。

このお話は明日に続きます。

 

あなたの今日がステキな一日でありますように!

チャバティ64でした。

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