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〇〇〇?そいつに自由はあるのかい?

連続小説ドライバー31 第三章「無題 ある絵描きの死」第十三話

こんにちは、チャバティ64です。

仕事はお茶の販売をしています。

BASEの「お茶の葉園」(あいばえん)

というショップを趣味で運営しています。

よろしくお願いします。

 

次回で連続小説が終了します。

お付き合いいただきましてありがとうございます。

 

彼女との別れ。

息子との出会い。

数々の涙の物語。

さあ、最終話前編です。

 

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(さようならマサムネ、ありがとう!)


連続小説ドライバー3 「無題(ある絵描きの死)」

昔話は本当の話の連続小説 第十三話

 

(この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません)

 

行く道は涙に濡れ、

行く道は嘆きにあふれ、

行く道は悲しみの数だけ続く

・・・「DRIVER」

 

《本編》

 

「会いたかったんだよ、パパ」 

「会いたかった」

 

マサムネは困惑した。

突然現れた子供が、自分のことを「パパ」と言っている。

時間の流れを素直に受け止められなかった。

 

しかし、初めて見る我が子は、まさしく自分の子供だった。

目や髪の色は黒く、顔立ちもすごく似ていた。

そして、見つめる目もとはバンビーノにそっくりだ。

すぐに「ギュッ」と、抱きしめることが出来た。

 

「あぁ、ハルトシ、いい名前だ」

「ごめんよ、ずっと会えなくて、ごめんよ」

マサムネは何度もあやまりながら抱きしめた。

 

それを見ていたミホは、小さくうなずきながら泣いていた。

廊下で話し声を聞いていたロンシャンも肩を震わせ泣いた。

 

ミホは「会わせていいものか」と、さっきまで思っていた。 

しかし今は「本当に連れてきて良かった」と思った。

 

それから数日で、マサムネは退院した。

退院するとき「もう一枚、絵が描けそうだ」と言った。

しかし、それから絵を描き上げることはなかった。

 

今も彼の魂は、木造アパートの一階で絵を描いている。

そう思えるほど、彼の「描きかけのデッサン」は見事だった。

 

そして...

バンビーノが信じていたことは正しかった。

彼の絵は、世界中で絶賛され名前を残す画家となった。

 

今頃バンビーノに色んな絵を見せているに違いない。 

きっと「ステキな絵ね」と、微笑んでくれていることだろう。

 

そして、後日行われた彼の葬儀で飾られたのは...

彼の代表作「無題」という名の絵だった...。

 

 

 

すべてを話し終わった社長は、静かに目を開けみんなに言った。

 

「彼の死後、ミュンヒルが自白し、不運の名画家として名高い「マサムネ・ヨサノ」が生まれたんだ」

「これは皆が知る、有名な話だね」

「唯一、マサムネのネームの入ったこの絵は、もちろん市場に出ないが、もし出たとしたら800万ユーロはくだらないだろうね」

 

「どうかな?たまには、話もいいもんだろ」

 

「え~っ」

「それが鈴木さんすかぁ~!」

「いや、ありえないっしょ!」

「だって、そもそも苗字がヨサノじゃないっすか、本当なら」

「さっき、その絵を外しましたけど裏側はガラスになってなかったすよ」

川崎は驚きを超越しながら言った。

 

「本当の話なんですか?社長」

「すごい話ですけどねぇ」

本多は冷静に言った。

 

「うそだよねぇ、さすがにぃ」

「鈴木さんがハーフって、ハハハッ」

山葉は笑いながら言った。

 

「ガチャ」

事務所の扉が開いた。

 

「鈴木さ~ん」

川崎は叫けび、一斉に鈴木を見た。

鈴木は絵と思われる包を持っていた。

 

 

「なんだ、みんなまだいたのか?」

「社長まで、めずらしいな」

「なんの話してたの?」

 

鈴木は梱包を解き、みんなにそれを見せた。

「社長、ちょうどよかった、これ飾っていい?」

それは、絵の下書きのようなデッサンだった。

 

「いいぞ、好きに飾れよ」社長が言った。

「そんじゃ、この辺に飾ろっかな」

 鈴木はゴキゲンだった。

 

よく見ると、鈴木の目は少し茶色く見えた。

髪も黒ではなく茶に近い。

言われてみれば、たしかに色も白い。

 

しかし、ホントなら「鈴木」という苗字もおかしい。

亡くなった両親の話を本人にも聞きにくい。

 

本多は席を外し、車庫に行った。

そして「TS葬儀社の大東部長」の携帯に電話した。

(大東部長 ドライバー第二章 参照)

 

元いたのなら何か知っているはずだ。

しかも、2人は仲がよさそうだった。

 

「プルルル、プ、もしもし大東です」

さすがの部長2コールで出た。

 

「もしもし、ライラックの本多です」

「ご無沙汰してます」

 

「久しぶりですね本多さん、お元気でしたか?」

相変わらず、丁寧でやさしい声だ。

 

「部長、ちょっとお伺いしたいことがあって...」

「プライベートなことなんですけど...」

本多が小声で言った。

 

「なんですか?私でわかることでしたら」

大東が返した。

 

本多は続けた。

「実は鈴木さんのことなんですけど」

「TSさんに勤務していたとか聞いたんですけど...」

 

大東が言った。

「そうですね、実務としては私と入れ違いぐらいでしたね」

「私は、まだ新入社員に毛が生えた程度でしたが...」

 

「本多さんが、ご存知かどうかわかりませんが、TSはこの業界では若い会社で、まだ創業30年過ぎたくらいなんです」

「会食の料理がおいしく、接客がいいことで評判になり、急激に大きくなった会社です」

 「しかし、退社はしてないですよ、鈴木さん」

 

「えっ、どういうことですか?」本多は聞いた。

 

「あれ、知りませんでしたか?」

「うちの葬儀社のTSって創業者の『タカフミ・スズキ』から取ったんですけど、鈴木さんのお父さんですよ」

「鈴木さんは社長のひとり息子で、いまでもTSの常務取締役です」

 「そちらの仕事が忙しくて、経営会議ぐらいにしか顔はだされませんけどね」

 

本多は沈黙した。

「もともと、うちの社長は「ロンシャン」と言う有名フレンチの本店で修行して、日本に戻ってきてから創業したと聞いています」

「奥様が専務をされていて、名前は読みずらいのですが「めぐむに、あゆむ」と書いて恵歩(ミホ)さんといいます」

「75歳を過ぎてますが、いまでも現場に出て接客されることがあります」

「いつも青いスカートをお召しで、ステキな方ですよ」

 

「え~っ!?」

本多の声が車庫中に響いた。

 

今日のお話はここまでです。

明日は最終回です。 

 

あなたの今日がステキな一日でありますように!

チャバティ64でした。

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