独り言の多い連続小説ドライバー? 第二章「とある屋敷のフスマノムコウ」最終話「シックスメランコリー」
こんにちは、チャバティ64です。
本日も連続小説ドライバーシリーズ第二章をお届けいたします。
壮絶な現場を制し、やっと帰途に就いた。
その後、思いも寄らぬ仕事を受け、不思議がる本多。
このあとすべてが明かされます。
それでは最終話、お楽しみ下さい。
(写真に収めたくなるどこにでもある美しい時)
独り言の多い連続小説ドライバー?
第二章「とある屋敷のフスマノムコウ」
最終話「シックスメランコリー」
(この物語はフィクションです、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません)
《本編》
本多は窓から右手を少し出し、手を振った。
「二人共、惨状を知ってて応援に来てくれるなんて...」
「あぁ、ありがたいな」
本多は涙目で独り言をつぶやいた。
それから2日後、本多はTS葬儀社で霊柩車のドライバーを務めていた。
夜間など手薄な時の搬送は引き受けるが、霊柩車の運転は今までも数えるほどしかなかった。
指示書には、TS葬儀社からの注文FAXが添付されており、喪家が山口家になっていた。
備考欄に「喪家より希望のため、本多さんでお願いします」と、書いてあった。
不思議なことに喪家の住所は東京になっていて、本多はさらに困惑した。
ヤマグチさんに心当たりがない本多は、遠縁の親戚とか友人の友人かと勘ぐっていた。
いずれにしても、TS葬儀会館から火葬場まで近いこともあり、左ハンドル以外は気が楽だった。
せっかくいただいた仕事なので、もちろんお受けしたが、この日に限って時間ギリギリまで他の仕事にあたっていた。
現場に到着した時、すでに霊柩車は出棺時の玄関口に横付けされていた。
もうすぐ式が終わる。
霊柩車は各社で作りが随分違うため、磨いているそぶりをしながら、確認していたところに、一人の女性が走ってきた。
その人は本多を見るなり「先日は、本当にありがとうございました」と言い、深々と頭を下げた。
本多は一瞬、誰かわからなかったが、声でその人がハバさんであることに気が付いた。
黒一色で「地味なメイク」「髪も縛り」金銀財宝も外され先日とは別人のようだ。
【そうか、ハバさんの指名だったんだ】
心の中で叫んだ。
「いえ、私の方こそ大変失礼いたしました」
「それより、式は大丈夫なんですか?」
本多は聞いた。
ハバさんは落ち着いた感じで答えた。
「会葬者が少ないから、さっき終わりました」
「出棺までしばらく時間があるそうで休憩中です」
「そうなんですね」
通常は式終了と共に霊柩車にご遺体を乗せ、皆で見送りながら出棺するのが普通である。
【珍しいこともあるんだな】
本多は思い言った。
「もしお許しいただけるなら、故人に手を合わせたいのですが…」
「ぜひ、お願いします」
ハバさんはそう言い、一緒に会場に入った。
「うわっ、スゴイ!」
「見事な花祭壇だ!」
本多はその祭壇に圧倒された。
まるで、遺影がお花畑の中で微笑んでいるようだった。
「私たちもこれが終わったらすぐに東京に帰ります」
「3年ぶりに子供達を父に見せようとして帰省したらあの状態でした」
「姉が父の面倒を見るという約束で、家も財産もすべて渡したのですが…」
「あのようなお恥ずかしい有様となっていて私も驚きました」
「母は早くに亡くなり、父はたった一人の肉親なのに…」
ハバさんは祭壇の前で悲しそうに言った。
本多は、しっかり手を合わせたのち、失礼にならないように会場からロビーに出た。
【そういうことだったんだ】
本多はハバさんを誤解していたようだ。
【そうか、ハバさんが山口さんで喪主を務めたんだ】
【田中さんはお父さんの苗字なんだ】
本多はやっとすべてを理解した。
ハバさん(山口様)は言った。
「父も持病があって苦しかったと思います」
「警察の立ち合いも私がしたので、現場を見て本当にそう思いました」
「それを本多さんにお世話になって、あんなに安らかな寝顔にしてもらって父も喜んだと思います」
「こちらの式場に来たら、本多さんにお礼が言えるかと思ったら別の会社の方だと聞いたので、大東さんに無理言って呼んでいただいたんです」
山口様は目に涙を浮かべ、こぼれ落ちるのをこらえていた。
「とんでもない、出来ることをさせていただいただけです」
「私どもにとって、故人が一番大切なお客様です」
「お客様に喜んでいただくのはどの仕事でも同じですが、私どもの仕事は直接お褒めいただくことはありません」
「それだけに、精一杯のご奉仕が出来たか?と、常に自問自答しています」
本多は少しだけ熱くなった。
「ありがとうございます」
山口様は目を閉じながらお礼を言った。
「私は東京で旅館の女将をしております」
「主人が大学の教授で、勤めていた旅館に泊りに来た縁で結婚し、その旅館も跡取りのいない先代から譲り受けました」
「子供達も普段は見習いをさせ、日々厳しく修行させています」
「今回のことでイヤな思いもしましたが、二人とも音を上げず最後までしっかりしていて本当に頼もしかったです」
「でも...」
「それを父に見てもらえなかったのが心残りです」
「なんであんなことに...虫の知らせなんですかね」
本多は言った。
「少し私の気持ちをお伝えしてよろしいですか?」
山口様はうなずいた。
「お父様はフスマの向こうで、すべてご覧になっていらっしゃったんじゃないでしょうか?」
「微笑むような安らかなお顔が、それを物語っていたと思うんです」
「遊びに来てくれた娘と、立派になられたお孫さんをご覧になって微笑まれていたんでしょう」
「私にはそう思えてしかたがありません」
山口様は頭を下げた。
「ありがとうございます」
「どうしても父の無念が引っかかっていましたが、そう言って頂けて本当にうれしいです」
「お会いできてよかった」
「本多さん、本当にお世話になりました」
「よかったら、東京にも泊りに来てください」
そういうと山口様は名刺をくれた。
そして、こらえきれなかった涙を拭い、深々と頭を下げ、会場へ戻って行った。
名刺に目をやると、そこには最近ミシュリンガイドでスターを獲得した高級割烹旅館の名前が書いてあった。
「こりゃ泊りに行けないなぁ」
本多は半笑いでつぶやいた。
その時、人の気配を感じ振り向こうとしたら左横に大東が立っていた。
「山口様が、ぜひ本多さんに挨拶をしたいとおっしゃっていたので少し出棺を送らせました」
「この名刺の旅館、来週の友前、友(友引前日、友引)で3名予約しました」
「TSで全部持たせてもらいますから、手ぶらでOKです」
「しかし、田中様、安らかなお顔になりましたね」
「あれは丸正さんの故人の口角を上げる技法ですね」
「どこで学んだんですか?」
大東にはすべてお見通しだった。
「いや、いつもそばで見させてもらってますから自然と覚えました」
「クビになったら丸正さんに雇ってもらわないと」
本多は笑いながら言った。
「クビになったらぜひ、TSに来て下さい」
「別にクビじゃなくてもいいですよ」
「いつでも待ってます!」
「しかし、故人が一番のお客様とは、名言でしたね」
「うちの朝礼でも明日、使わせてもらいますよ」
大東はそう言うと、右手で本多の左肩を「ポン」と叩いた。
本多は顔から火が出るほど恥ずかしかったが、この仕事がますます好きになった。
「さぁ、次も頑張るぞ」
「えっ?何か言いましたか」
大東は聞いた。
「なんでもありません」
「最近独り言が増えたのかなぁ?」
と、つぶやく本多だった。
「それではご出棺でございます」
「合掌にてお見送りください」
【ファーーーーン】
クラクションの音が、最後のお別れを告げた。
おわり
いかがでしたか?
ドライバー第二章です。
行く道の数だけドラマがあります。
しかし、漫画とか書けたらもっと伝わるんだろうなぁ。
誰か書いてくれないかなぁ。
そうつぶやくことが増えました(笑)
今日のお話はここまでです。
あなたの今日がステキな一日でありますように!
チャバティ64でした。