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〇〇〇?そいつに自由はあるのかい?

バイク乗りに捧ぐ マッチョな前さんの話リターンズ

こんにちは、チャバティ64です。

仕事はお茶の販売をしています。

BASEの「お茶の葉園」(あいばえん)

というショップを趣味で運営しています。

よろしくお願いします。

 

今日は、ほぼ読まれていない前さんの話(誰?)をお送りいたします。

フィクションのショートストーリーです。

少し笑えるお話です。

それではどうぞ。

 

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(ボクの一台目のRSです 1995撮影)

 

ショートストーリー

バイク乗りに捧ぐ マッチョな前さんのお話

 

ボクの住む静岡県は、年間を通し雨が少なく住みやすい。

 

ものすごく暑い鹿児島の田舎で生まれ、

ものすごく寒い岐阜の田舎で育ち、

今は、快適と思われる静岡の田舎で生活している。

 

静岡に来て35年を数えるが「ほかの県に引っ越そう」「実家の岐阜に住もう」とか思ったことは一度もない。

年がたつにつれ、この気候になれてしまったが、静岡に来た年の冬は、冬らしい寒さをまったく感じず、雪も降らない環境にとても驚いた。

 

しかも「雪がないから年中、バイクに乗れる!」と、喜んだものだ。

実際に冬も、近所は上下ジャージにサンダルで乗っていた。

ヒートシャツやヒートパッチが無い時代にだ。

今考えると「ゾッ」とするが、年は取りたくないものだとも思う。

 

そんな頃の古い話である。

 

冬のある日、近所のバイク屋さんに行くと、みんながストーブにあたっていた。

入っていくと「おまえ、ジャージって気はたしかか?」と、笑われた。

 

「岐阜の出だったよな」ひとりが言った。

当時、冬場は「名神関ケ原」が、雪で通行止めになるから、みんな納得した様子だった。

 

たしかにその日は、少々肌寒く「そろそろ暖かいジャンパーでも買おうかな?」と、迷っていたところだったから、みんなに「安くていいお店」を教えてもらっていた。

 

そのまましばらく、ストーブ前で談笑していたら「サイクロンの咆哮が響いた!」

シビれる音色に、表に出たら「なんと!カタナだ」しかも、当時珍しい輸出用の「1100」だった。

 

「カッケェ~!」

 

オーナーらしき「Gジャンの袖なしを、素肌に来ている超ワイルドなおじさん」が、そこに立っていた。

 

「あっ、前さん、こんちわっす」皆が一斉に挨拶した。

ボクは迫力に圧倒され「挨拶するタイミング」を、逃してしまった。

 

頭は僧侶のごとくツルツルで、ものすごくマッチョ、さらに透き通るような白い肌、少々強面感の漂う聞けばまだ24歳の貫禄ある青年だった。

 

世の中、上には上がいるもんだ。

 

なんの違和感もなく、この寒空に「素肌に袖なしGジャン」の人がストーブ前で談笑している。

すると、前さんが突然こちらを向いて低い声で「お前は誰だ?」と言った。

 

外国の方から「フゥ~ア~ユゥ~?」と、言われたような感じだ。

 

ボクは慌てて説明するように「ボクは、この先の工場に今年入りました茶場庭(サバニワ)といいます」

「よろしくお願いします」と、聞きもしない勤め先まで言った。

 

「そうか、外の750RSお前か?」

「この辺じゃ見ないもんな」

 

前さんは、ボクのジャージはスルーして単車だけを聞いてきた。

 

「そうです...鉄クズみたいに古いのですけど」

(当時解体屋さんにゴロゴロあって部品はそこで買うのが普通だった)

 

前さんが言った

「そうか、今度走りに行こうぜ!、俺もおんなじ工場だ」

 

「ハイ、お願いします!」

ボクは返事しながら少々驚いていた。

【そうだったんだ、こんなワイルドな人もいるんだな】と思った。

 

ついでに、勇気を振り絞って言った

「どうして冬に袖なしGジャンなんですか?」

 

前さんは、豪快に笑いながら言った。

 

「ガッハッハァー!」

「これしかないんだよ、着るもんが」

 

「パーティーはタキシード」

「葬式は喪服(礼服)」

「バイクはGジャン」だろ?

 

そういうと前さんは「ニカッ」と笑った。

 

かっこよすぎる!

一発でファンになってしまった。

それから、ついでに聞いてみた。

 

「寒くないですか?」

 

これには「お前が言うな!」って一同大爆笑だった。

そんな中、前さんは真面目に答えてくれた。

 

「あぁオレ、北海道の旭川の出でな」

「静岡に来て、一度も寒いと思ったことはない!」

と、軽く微笑みながら言った。

 

世の中、上には上がいる。

 

「すげえ!!」心から思った。

ジャンパーを安く買う店など聞いていた自分が軟弱に思えた。

ちなみに翌日、Gジャンを買いに行ったのは言うまでもない。

もったいないので袖を切ることはしなかったが、ワイルドさが足りない気がした。

 

それから、世間の狭い自分は、北海道も旭川も行ったことが無い

もっと、もっと、話が聞きたくなった。

 

旭川ってどんなとこなんですか?」

知らないから勝手にすごく田舎を想像した。

(本当はすごい都会です)

 

「うん、冬はすごく寒いな」

 

やっと、この人から「寒い」というワードが出た。

 

話は続いた

 

「小学校の頃に可愛がってた犬がいてな」

「朝になったら犬小屋で凍って死んでたんだ」

「そのくらい寒いときもあるぞ」

 

「それから犬は家の中で飼うようにしたんだ」

 

知らない自分たちにとっては、もはや災害レベルの話である。

 

ストーブ前にも関わらず、全員が凍った。

ボクは、不謹慎にも夏に焼津港で入った「マグロの冷蔵庫」を思い出した。

 

みんなが解凍中のなか、ボクは冗談で言った。

「バナナで釘が打てそうですね」

(当時CMでやっていた)

 

前さんは、まじめな顔で答えた。

「サンマでも打てるぞ」

 

【きっとそうなんだろうな】

ボクは思った。

 

すっかり打ち解けた(凍らずにすんだ)前さんとボク。

調子にのって、ついつい聞いてしまった。

 

「どうして頭を剃ってるんですか?」

周りの人が少し引いた気がした。

 

前さんは両手を胸元に合わせ合掌のポーズをとった。

【やっぱりお坊さんのうちの人なんだ】

ボクは勝手に思った。

 

次にその合掌を解いたかと思うと目にも止まらぬ動きで

「ズッシィーン」と、地響きと揺れを感じた。

 

世に言う「震脚」である。

(みんな知らない?)

 

前さんは合掌のポーズで膝が直角になるくらい腰を落としていた。

 

「馬歩站椿」である。

(知らないって)

 

これはまさしく、この間ビデオで見た「少林寺」の修行シーンじゃないか!

まるで、リー・リンチェン(現 ジェット・リー)のようだった。

 

前さんは照れることなく「少林寺拳法をずっとやってて、なんとなく剃った」と、言った。

そうなんだ、なんだか納得できた。

(当時4段の腕前だった)

 

それから、前さんとは合えば必ず話をした。

その年の夏に一緒にツーリングにも行った。

 

やっぱり袖なしGジャンを素肌に来ていた。

素肌(頭皮)にヘルメットも、相変わらずだった。

 

しかし、不思議と前さんには会社で会うことはなかった。

【まぁ、6,000人もいればなかなか会うこともないかな?】

ボクは勝手にそう思っていたが違っていた。

前さんは、ボクのような油にまみれる現場の工員ではなく、親会社から管理のために派遣された「エリート社員」だったからである。

人は見かけによらないものだ (失礼)

 

前さんと知り合って一年ちょっとの春、前さんは人事移動で親会社に戻ることになった。

残念だが、盛大な送別会を、さくらの見える河原でやった。

前さんの人柄のせいか、たくさんの人が集まった。

花見には少し早いせいか、誰もいなくて貸し切りのようだった。

 

そのときに、前さんの彼女と名乗る女性がきて、黒髪のロングヘアーも眩しく、ものすごくスタイルのいい美人だった。

最後の最後に「完全な隠し玉だ」

 

世に言う完全版「美女と野獣」である。

 

みんな「なんでこんな人が...」と驚いていた。

やはり、女性にも魅力的に映ったのか、あの素肌に袖なしGジャン姿が。

 

少し日が傾き始め、お開きが近づいて着た。

みんなで募った餞別で買ったプレゼントを渡す時が来た。

 

それは、ひと月ほど前に本人に欲しいものを聞いて用意したものだった。

 

ボクは前さんに聞いた。

「前さん、送別会のプレゼントなんですけど何かリクエストありますか?」

 

前さんは即答で言った。 

「錫杖が欲しい!」

 

「錫杖?」「錫杖ってあの棒ですか?」

ボクは少々驚いていた。

 

「そうだ、あの棒だ、オレ持ってないから」

 

そりゃ普通、持ってないだろ!

地面を突くと「シャン」と鳴る、あの棒だ。

持つ人が持てば、何かを退治できそうな、あのアイテムが欲しいと...

 

ホントのお坊さんになるつもりか?

それより、どこに売ってんだ?

皆に聞いた「知っている人、教えてくれ」

 

「なんでそんなものを?」みんなが言った。

 

「そんなこと知らないよ」

「とにかく本人が欲しいらしいから探すよ」

 

みんなで手分けして探した。

ネットのない時代、やっとの思いで探しだし、渡すことができた。

結構いい値段だったような気がする。

 

ご満悦の表情で受け取った前さんは、おもむろに地面を「ちからいっぱい」突いた。

 

「シャーン」となる音が、前さんの旅立ちを告げた。

  

「これしかないんだよ、着るもんが」

 

ガッハッハー

 

ふと、いまもあの声を思い出す。

 

 

おわり

 

今日のお話はここまでです。

 

あなたの今日がステキな一日でありますように!

チャバティ64でした。

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