連続小説ドライバー23 第三章「無題 ある絵描きの死」第五話
こんにちは、チャバティ64です。
仕事はお茶の販売をしています。
BASEの「お茶の愛葉園」(あいばえん)
というショップを趣味で運営しています。
よろしくお願いします。
今日も連続小説ドライバー?「無題」をお送りします。
ここから、新しい展開です。
外国人は誰?
そして絵描きは何ものなのか?
ごゆっくりお楽しみください。
(素晴らしい景色も、さくらでかすみます)
連続小説ドライバー3 「無題(ある絵描きの死)」
昔話は本当の話の連続小説 第五話
(この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません)
行く道は涙に濡れ、
行く道は嘆きにあふれ、
行く道は悲しみの数だけ続く
・・・「DRIVER」
《本編》
その絵を後で眺めていた背の高い初老の外国人は、突然「その絵を売ってくれないか?」と話かけてきた。
また「素晴らしい絵だ、ずっと日本の店にも『さくらの絵』を飾りたいと思っていたんだ」と流暢な日本語で言った。
聞けば、フランス料理のシェフで、世界十数か国に自分の店があり、どの店にも「さくらの絵」が飾ってあるそうだ。
今回、日本のお店がオープンしたため、わざわざフランスの店から「絵を外して持ってきた」と言っていた。
「フランスの店で、さくらの絵がなくて、売り上げが下がるんじゃないかと心配しているんだ」と、冗談まじりに言っていた。
絵描きは「まだ描きかけだから」と断ると「何日でも待つから譲ってほしい」と言われ、背広の内ポケットから名刺を取り出し、手に渡された。
その名刺を見ると、外国人の名は「ジュエル・ロンシャン」若干26歳でミシュリンのスターを獲得し、5年前に突然引退した伝説のフレンチシェフ、その人であった。
絵描きは、そんなことを知る由もないが、フランスにいたときに、一度だけ「バンビーノ」と、一緒に行ったことがあった高級レストラン「ロンシャン」だったことはわかった。
プレゼント代が残らなかった「あの店」だ。
まさか、日本に帰ってきて思い出の「ロンシャン」のオーナーに会うなんて思いもしなかった。
彼は、この出会いは奇跡だと思った。
「ロンシャンさんは、さくらがお好きなんですね」
絵描きは言った。
「違うんだよ、さくらの絵が好きなんだよ」
「部屋に飾っておけば、いつも春さ!」
「店が気持ちのいい季節のままだろ?」
そういうと絵を見ながら微笑んだ。
絵描きはどこかで聞いたことがあると首をかしげた。
「キミの名前は?」
「マサムネです」絵描きは、そう答えた。
「そうかマサムネか、いい名前だ」
ロンシャンは嬉しそうに笑った。
「キミの絵は『ミュンヒル・ロータリー』の作品に似てるんだよ」
「キミは知らないかい?」
絵描きは友達だった「ミュンヒル」を思い出した。
彼は親の代から続く画商だが、自らも絵を描いていることは知っていた。
しかし、彼の名字は「レシプロス」だし、ありふれた名前だったため「知らない」と答えた。
「ボクは彼の大ファンでね」
「取材を一切うけない幻の画家で、10年ほど前に突然引退してしまったんだ」
「インスピレーションがわかなくなったといって」
「さくらが代名詞だったが、引退前に発表した数点の作品は画風が変わり、鬼気迫るものがあって、素晴らしいものばかりだよ」
「どれも、高くて簡単には買えないがね」
「本当に残念だよ」
「まぁ、ボクも引退後のファンだがね」
「ちょうどその頃に、ボクは風邪をこじらして3日だけ街の病院に入院したことがあってね」
「そのときに知り合った看護師が、ボクのことを知ると『どうしてもお店に飾ってほしい絵がある』と言って翌日持ってきたんだ」
「看護師?どんな感じの人でしたか?」
絵描きは聞いた。
「顔色の黒い、すごくヤセた金髪の妊婦さんだったよ」
ロンシャンは難しそうな顔で答えた。
絵描きは、唯一の友人だった「ミュンヒル」という名前には無反応だったくせに、看護師と聞いて「バンビーノ」を思い出し、思わず聞いてしまった自分が恥ずかしくなった。
しかも彼は、今を支えているのは「バンビーノ」との思い出だけだということが、自分でも痛いほどわかっていたのだった。
ロンシャンは続けた。
「それは店に飾る絵としては小さ目で、ノーネームだった」
「しかし、とても美しく素晴らしい作品なんだ」
「ボクは一目で気に入って、店の真ん中の柱に飾ることを彼女に約束したんだ」
「彼女は、喜んでくれたが『一つだけ約束してほしい』と言われてね」
「それは『額から絵を取り出さないこと』だったんだ」
「絵が痛むからイヤだと言っていたよ」
「彼女にとっても大切な絵なんだね」
「ボクはもちろん『約束を守る』と言ったよ」
「それから、ボクはすぐに退院したけど、誰が描いたものかを聞き忘れたから、病院へ行ったが彼女はいなかったよ」
「絵を受け取った翌日に病院をやめてしまったんだ」
「ボクはそれから、その看護師と、この作品の作者を探したよ」
「そうして、よく似た絵を描くのが、ミュンヒル・ロータリーだったわけさ」
「それでボクはミュンヒルのファンになったんだよ」
「おかしな出会いだろ?」
「手を止めさせてすまんが、もう少しだけいいかな?」
絵描きはうなずいた。
「料理はね、絵に少し似ているんだ」
「キミがたくさん絵を描いたように、ボクもいっぱい料理を作った」
「ボクはシェフだったが、ありがたいことに、ボクが作る料理が少しだけ他よりも愛され『食べたい』という人が増えたんだ」
「だから店を増やした」
「しかし、ボクも年をとり、力も衰え味覚もにぶる」
「だから、ボクは引退し、レシピを残すことにしたんだ」
「いまは、かつての仲間、ライバル、生徒達が素晴らしい料理を作ってくれている」
「ボクは『レシピという誰もが鑑賞できる絵』を残せて満足なんだよ」
「いまは、お店をながめるだけの、ただの老人だがね」
そう言うと、ニッコリ笑い「完成するころにまた来るよ」と後ろ向きに手をふり歩いていった。
「わかりました、待ってます」
今日のお話はここまでです。
このお話は明日に続きます。
あなたの今日がステキな一日でありますように!
チャバティ64でした。